「写真はさぁ、やっぱり、あとだよ」
保田駅前商店街に「江田写真館」という営業写真館がある。店頭にあるショーウィンドウには、いつも町の子どもたちや家族の写真が飾られている。町の人は通称「江田さん」と呼ぶ。昭和6年に創業された同店は、現在2代目の江田晃一さんが営む。私も七五三や入学式などの記念写真はいつも江田さんの店内スタジオで撮ってもらった。ショーウィンドウに自分の写真が飾られていたことがあったが、はずかしくもうれしい、不思議な気持ちだった。私が調べてきた保田の古い保養地文化のことでも、江田さんにはたいへん協力を頂いている。
先日店にうかがうと、江田さんは「古い写真がたくさん出てきたからみてごらん」と、いくつかの箱を奥から持って来て、広げてみせてくれた。昭和6年に同館を創業した、父・江田晃陽氏が出張したりスタジオで撮影した写真という。その数約600枚。大量のモノクロの紙焼き写真が束になって保存されていた。七五三、結納、兵隊の出征、地域の祭りの集合写真、、一枚一枚手に取り、そこに写っている人の表情や服装、背景の街の様子などをみて味わっていく。今の時代とは違った空気感、質感がにじみ出ていて、いろいろと思いが巡る。ある枚数を越えると、手に取っている写真の存在がとても尊く思えてきた。
ブラインドの隙間から昼の日が差し込むスタジオで、江田さんと2人で古い写真を取り出して見ていると、江田さんは「写真はさぁ、やっぱり、あとだよ」と一言。「あとってどういうことですか?」と聞くと、「後になって、出て来るもんなんだよね。良さがね」と返した。私は「写真」の持つ底力に触れたような心地がした。
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