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別荘と花弁



すぐ近くにある別荘は、戦前からのもので著名な学者が建てたもの。普段草を掃除したり、窓を開けて風を通したりしている。

主のご家族から、年に数回、いついつに行き来ますと知らせの電話がかかってくる。その電話があると、その日までにまた庭を掃いたりして綺麗にしておく。到着の数時間前に窓を開けて風を通しておく。

別荘を持っていても、たまに来て掃除だけで滞在の半分を使ってしまうというような話をよく聞くので、せっかく来るのだから着いたタイミングから気持ちよく過ごしてもらえたらいいと思ってやっている。

主のご家族は、滞在の最後にはいつも一輪の生花を活けていっているようで、数か月してまた来たやってくるころには、花弁は花器の下や畳の上に散っている。

この花びらの散った景色がかなりきれいで、個人的に気に入っている。閉め切っていた別荘の戸を開けると、暗かった部屋に日が差し込んで、散った花びらにあたって小さな影が伸びる。別荘の主が不在の時間を一輪の花が表現しているような気がするのだ。

だから、室内の掃き掃除をしても、私はその花弁は片付けないことにしている。

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