朝、パソコンで調べ物をしていたら、ドスンと鈍い音がした。「なに?」と台所に立っていた母がつぶやいた。トンビとカラスが家の近くでけん制しあっている気配があったので、私は「鳥でも壁にぶつかったんじゃない?」と返した。
小一時間して、隣町の布団屋さんが飛び込みで訪ねてきた。玄関から「お布団の仕立てありませんか?」と声があったので出ていった。特段必要な布団も無いので「ごめんなさい、間に合っています」とお断りした。「そうですか、またお願いします」と言った布団屋さんは、去り際に「この鯵(アジ)は何ですか?」と指をさして振り返った。
布団屋さんの指の先には生の鯵(アジ)が一匹、転がっていた。
20歳くらいの頃、友人の車で街中を走っていた時のこと、車にイワシが降ってきたことがあった。急にフロントガラスに魚が落ちてきたので二人して驚いた。そして偶然にもその友人は魚屋の息子だった。通りの多い国道でのことだったが、道の上空にはトンビとカラスがたくさん飛んでいた。空中でイワシの取り合いをしていたのだ。
朝の「ドスン」は、きっとあの時とおなじで、家の上でトンビとカラスが鯵を取り合っていたんだろう。
布団屋さんが帰った後、母に「さっきの音は空から鯵が降ってきた音だったよ」と言ったら、驚いたようすだったが、ちょっとして、割と落ち着いた口調で「いまは脂がのってるからねぇ」と返してきた。予想外な返しに、おかしくて笑ってしまった。
庭先に転がった鯵は張りのある肉厚な姿をしていて、たしかに脂がのっていそうだった。。
また鳥が持っていくだろうと思い、鯵を家の脇のどぶに放っておいた。少ししたら、カラスが咥えて飛んで行った。
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