去年のこと、仕事を終えて鋸山の麓の元名海岸から歩いて家まで帰った。砂浜を長く歩いたのは小学生以来のことだったと思う。国道の歩道でなく、できるだけ砂浜と旧道を通ることにした。ハイカットの革靴を履いての砂浜は歩きにくかったが、歩みを進めるごとに昔保田の海で泳いだ記憶が思い出された。
小学5年生の時、友だち数人と保田駅の下の海に泳ぎに行ったことがあった。仲間はそこで遊ぶのに慣れていたが、私は慣れた家の下の海以外のところで泳ぐのは初めてだった。いつもの砂浜と比べると勾配がきついうえ、ごつごつとした小石が多く、とても歩きにくかった。皆で一緒に海に入ったが、足裏の小石は水の中でもゴロゴロいていて慣れない。慎重に歩みを進めたが、急に深くなって転んで溺れかけた。さほどしないうちに、一人が「痛てえぇ!」と叫んだ。皆で浜にあがると、声をあげた友人の胸元には赤い線が数本走っていた。電気クラゲに刺されたのだった。風と雲が出てきて、その日は皆早めに帰った。
同じ保田でも、家の前の海は遠浅で砂は細かい。海水浴には格好の環境だ。私は幼いころから祖父に連れられて夏場は毎日家の下の海岸で泳いでいたので、海には慣れているつもりだった。だからあっさりと溺れかけてしまったことは不本意だったし、怖かった。自分はとても安全で恵まれた環境で泳いでいたにすぎないんだと気づかされた。なんというか、幼心に世界の広さを感じた日だった。
歩きずらい海岸を終えて、旧道に入り、古い漁港で一休みした。あの日のことを思い出しながら歩いてきた景色を振り返って一枚写真を撮った。とにかくこの街を歩いているのは確かなんだな。
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