instore event
映画『私だけ聴こえる』上映会
&松井至監督トーク
2024年8月30日に北条文庫インストアイベントを開催しました。二回目となる今回は、ドキュメンタリー映像作家の松井至さんをお迎えして、監督作品『私だけ聴こえる』の上映とトークイベントを行いました。
耳の聴こえない親から生まれた、耳の聴こえる子どもたち、コーダ(CODA:Children Of Deaf Adults)。2022年に公開された本作は全編アメリカで撮影、コーダ・コミュニティを取材をした初のドキュメンタリー映画です。10代青年期というアイデンティティ形成において多感な時期を、聴こえる世界と聴こえない世界のあいだで揺れながら過ごすコーダの子供たちの3年間に密着しています。
トークイベントでは「<他者と生きる自分>をとらえ直す」をテーマに、映画制作の動機や経緯、制作の過程から見えてきたことなど、松井監督の話に耳を傾けました(聞き手:北条文庫・前田)。トークの途中、参加者同士で感想を話し合う時間を設けました。参加者のみなさんの感想をもとに対談をすすめていきました。特に福祉や医療関係など対人支援に関わる参加者から多くの発話がありました。
<監督プロフィール>
1984年生まれ。人と世界と映像の関係を模索している。
耳の聴こえない親を持つ、聴こえる子どもたちが音のない世界と聴こえる世界のあいだで居場所を探す映画『私だけ聴こえる』が公開され、海外の映画祭や全国およそ40館のミニシアターで上映され反響を呼んだ。令和4年度文化庁映画賞文化記録映画大賞受賞。
信陽堂よりドキュメンタリー制作記〈人に潜る〉を連載中。
誰からでも依頼を受けるドキュメンタリーの個人商店〈いまを覚える〉。
日本各地の職人と自然との交わりをアニミズム的に描いた〈職人シリーズ〉。
コロナ禍をきっかけに、行動を促すメディア〈ドキュミーム〉を立ち上げる。
無名の人たちが知られざる物語を語る映像祭〈ドキュメメント〉を主催。
【受賞・公式招待】
第30回 農業ジャーナリスト賞
TokyoDocs 2016 最優秀企画賞
TokyoDocs 2017 ショートドキュメンタリー優秀作品賞
北米最大のドキュメンタリー映画祭 Hot Docs 2017 Pitching forum
貧困ジャーナリズム賞 2020
第58回 ギャラクシー賞・ギャラクシー賞奨励賞
第37回 ATPテレビグランプリ賞奨励賞
Hot Docs 2021 正式招待
DocEdge Film Festival 2022 Best Sound Award
2022年 文化庁映画賞記録映画部門 大賞
Breaking Down Barriers International Disability Film Festival 審査員特別賞
Nippon Connection 2024 正式招待
「千倉の海で育ちました、再び南房総に縁ができてうれしい」と語る松井監督。幼いころから祖父母両親とともに毎夏南房総千倉の家に来て、釣りや海水浴をして過ごしていた思い出を語ってくれました。松井監督は信陽堂さんのホームページ上でコラム「人に潜る」を連載しており、そのバックナンバーに祖父との千倉の海で過ごした時の回想が記されています。「人と世界と映像の関係を模索する」松井監督にとって、この体験は万象をとらえるうえでの原体験になっているようでした。
人に潜る 第6話<br>握手 | 草日誌 | 信陽堂編集室 (shinyodo.net)
この映画を見るまで、私はコーダという存在を知りませんでした。スクリーンに映し出されるコーダの人の葛藤や迷いの様子を見ながら、これはどういうことなのか、自分の体験や記憶と照らし合わせて視聴しました。映画を通して、コーダという存在について知ることができた一方、よい意味で当事者以外にはわかりえない世界があるということも同時に感じました。この映画はコーダという存在を通して、他者と生きることそのものに対する問いが発せられているような気がします。
トークで特に印象的だったのは、本作制作の途中で松井監督が経験したある種の挫折と深い気づきの話。コーダの存在を世に伝えるべく作った予告編を女性の取材対象者に見せると「私がかわいそうに見える」「あなたにはコーダのことはわからない」などと全く嫌われてしまい、その後約1年間は制作が止まった。この期間は松井監督にとってそれまで自身が考えてきたドキュメンタリーのあり方を見つめ直さざるを得ない機会となったそうです。彼女との再会の時に松井監督は「1年間悩んだがコーダのことはわかりませんでした」「あなたが監督になってください」と伝えたことで、お互いの心が通い制作が再開したといいます。松井監督はこの経験から「人は代弁をされたくないけど、自分を表現したいものなんだ」ということがわかったといいます。
今回のトークのテーマが、コーダの存在を伝えるということだけにとどまらず、他者と生きるという内容であったのも、松井監督がこの映画制作の途上で経験した深い葛藤や心の動きがあってこそのものだと思い、私も新たな気づきを得ることができました。(北条文庫・前田)
■上映作品
『私だけ聴こえる』
(2021年製作/76分/日本)
□会場 :書店・北条文庫 千葉県館山市北条1625−25 YANE TATEYAMA 1F
□日時:2024年8月30日(金)
18:00開場/18:30開演
□admission 2,000yen (要予約先着20名)
-TIME TABLE-
18:00 開場・受付
18:30 私だけ聴こえる 上映
20:00 松井至監督 トーク